「くーまちゃんっ!」
言葉だけを見れば、実に親し気。だがその声音に、親しみは感じない。
くまちゃん そう呼ぶのは、自分を軽んじる時だけ。
だから返事はしなかった。そちらすら、見なかった。だが、そのような態度は、何の意味もない。
「何だよ くまちゃん。無視すんなよぉ〜」
「コイツ、外人みたいな名前のくせに、英語が苦手なんだぜーっ」
「この間のテスト、25点だってよっ」
クラス中に響き渡る声で点数を暴露され、瑠駆真は蒼白した。思わず立ち上がるが、返す言葉なんて、見つからない。
言葉なんて、無意味だ。
そう 何もかもが、無駄なのだ。
「なんだよ?」
相手の少年は、面白そうにニヤニヤと笑う。体格では敵わない。
またみんなの前でバカにされる。誰にも庇ってもらうことなく虚仮にされる。
中学にあがったら、少しは状況が変わるかもしれない―――
そんな考えは甘かった。
入学して一ヶ月で、瑠駆真はイジラレ物された。
「何だよ、くまちゃん。怖い顔しちゃって」
「ホントのコトだよなぁ〜?」
肩にまわされた腕の重みに、顔が歪む。
昼休みを寛ぐ同級生達。だが誰一人、瑠駆真を助ける者はいない。
そう、僕は誰にも庇ってもらえない。みんな自分が可愛くて、僕のことなんてどうでもいいんだ。
僕は誰にも助けてもらえなくて、一人見捨てられるんだ。
卑屈な思いと共に更なる扱いを覚悟した瞬間だった。
「他人のテスト覗き見するなんて、趣味ワルっ!」
突然の声だった。
「っんだよ? コイツを庇うのかよっ?」
せせら哂う男子生徒にも、少女は臆しない。
「へっ! 女に庇われるなんて、ダッセーっ!」
そう言って一人が瑠駆真の脹脛を蹴る。だがっ
「アンタこそ、女に言い返されるなんて、超ダサッ!」
「―――――っ!」
殺気立つ少年。周囲には緊張が走る。
だが少女は、気に留める様子もない。
「っんだよ? ヤル気かよ?」
「ヤル気? ジョウダンでしょう? アンタみたいな男と何をやれって言うのよ?」
「このヤローっ!」
お決まりのセリフと共に腕を振り上げた時だった。
「コラッ!」
大声と共に太い腕が割って入り、そのまま一人の男子は締め上げられる。
「またお前かっ……… お前らも、来いっ!」
教師はそう怒鳴りながら、膨れる生徒を引きずっていく。他の生徒も、しぶしぶながらついて行く。
その姿におもいっきり舌を出し、少女がクルリと振り返った。そうして、少し眉を寄せながらも、スッキリと笑った。
「アンタもさぁ、もうちょっとやり返してやんなよ。やられっぱなしじゃあ、みっともないじゃん」
だが――――
余計なコトしやがってっっ!!
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